「王舎城の悲劇」という物語


「観無量寿経」というお経には、あるストーリーがあります。

「お経」というものは、ほぼ全てに、「どんなことがきっかけとなり、どんな人に対してどんなことが説かれたのか」という”シチュエーション”が存在します。これを「序文」といいます。

この「観経」にも、悲劇と呼ばれる物語が「序文」としてあります。


このお経は、お釈迦様が生きておられた時代に「王舎城(おうしゃじょう)」というお城で起こったある事件が舞台となっています。



〜 マガタ国という国の首都にあるお城「王舎城」である事件が起こります。

その事件とは”クーデター”でした。

その国の王子であったアジャセ太子は、父であり王であるビンバシャラ王を牢獄に閉じ込めたのです。

当時、お釈迦様を敵視していたダイバダッタというものがアジャセ太子を利用し、そそのかして、この紛争を策略したのです。


アジャセ太子は、父を牢獄に閉じ込め、食べ物を与えず、餓死させようとしました。

しかし、そのことに気づいたアジャセ太子の母であり、王の妻である韋提希(いだいけ)は、体に食べ物を塗り、王に面会するという体で、王を餓死させないように食べ物を与えていました。

さらに王は、お釈迦様の弟子である目連尊者(もくれんそんじゃ)、富楼那尊者(ふるなそんじゃ)に、牢獄の中にいながら仏の尊い教えをきいていました。

このように、王は牢獄に閉じ込められてはいましたが、体の栄養と心の栄養を取っており、顔色もよく、とても健康に過ごしていました。


アジャセ太子は、獄中でこのようなことがなされているとは知らず、3週間過ぎても生きているとは思っていませんでした。

しかし、門番からこの情報がアジャセ太子に届くと、太子は激怒します。

頭に血がのぼったアジャセ太子は、こっそり食べ物を運んでいた母を、剣で殺そうとします。

その時、耆婆(ぎば)と月光(がっこう)という二人の大臣が、


「太子よ、これまでに王位を奪うために父を殺害するというケースは一万八千回あったと言われています。しかし、実の母を殺害するものというのは、未だに聞いたことがありません。絶対にあってはならないことです。それはこの国の家柄にも大きく泥を塗る行為です。どうか、おやめください。」


といい、剣に手をかけ、プレッシャーを与えながら、アジャセ太子をいさめるのです。


このことから、アジャセ太子は母を殺すことは思いとどまりましたが、その後、城の奥深い場所へ、母を閉じ込めるのです。


実の息子に殺されそうになり、挙げ句の果てに牢獄に幽閉された母、韋提希は、心身ともにやつれていきます。


母、韋提希は、お釈迦さまを思い浮かべ、懇願します。


「お釈迦さま、あなたは以前、お弟子である阿難(あなん)尊者を遣わせて、私を慰めてくださったことがありましたね…

お釈迦さまに来ていただくのは恐れ多いので、せめてお弟子である阿難尊者と目連尊者を私のもとへ遣わせ、合わせてください……」


そうして、韋提希は深く頭を下げ、願いました。

するとその瞬間、その心を感じ取ったお釈迦さまは、瞬時に弟子の阿難と目連を引き連れ、韋提希の目の前に現れるのです。


韋提希が頭をあげると、すでに目の前にはお釈迦さまが尊いお姿で降臨されていました。


母、韋提希は驚きますが、お釈迦さまを見て崩れ落ち、号泣してこう言います。


「お釈迦さま! 私に何の罪があって、あんな悪い子供を持ったのでしょう。しかもお釈迦さま、あなたは息子をそそのかしたダイバダッタと親戚らしいではないですか。なぜあのような者と親戚なのですか。」


と、取り乱してお釈迦さまに苦しみをぶちまけます。

そして自分の苦しみを吐き出した韋提希は、次にこう言います。


「お釈迦さま、私はこのような憂いや苦しみのない世界があるのなら、私に教えてください。」


その願いを聞いたお釈迦さまは、その瞬間、眉間から金色の光を放ち、様々な仏の国を韋提希に見せるのです。

様々な仏の国をお釈迦さまに見せてもらった韋提希は、その中から阿弥陀さまのお浄土選び、この極楽世界に生まれたいと願いました。


この時、お釈迦さまは微笑み、阿弥陀さまのお浄土の教えを説く時が来たとして、教えを説かれ始めるのです。

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