天親菩薩が「浄土論」を制作した理由

 

 「浄土論」という書物は、正式名称を「無量寿経優婆提舎願生偈(むりょうじゅきょううばだいしゃがんしょうげ)」といい、「浄土三部経」に説かれている「阿弥陀如来さま」のことについて、また、その阿弥陀さまのおられる「お浄土」へ生まれることを願うという、いわば天親菩薩ご自身の「阿弥陀さまのお浄土に生まれさせていただくという願いの告白書」であると言えます。


天親菩薩はこの「浄土論」を作成されたのは、どういう理由かというと、


 ① 「浄土三部経」の真髄を明らかにするため。

 ② 阿弥陀さまの西方浄土へ生まれ、自身がさとりをえると同時に、仏となって迷える衆生を救う「自利利他」の行を全うするため。

 ③ 阿弥陀さまの救いのご本願「第十八願」を明らかにし、計り知れないほど深く広く、何ものにも妨げられないお慈悲の心である「一心」を示そうとされたため。


という3つの理由が挙げられます。


親鸞聖人は、


 「ここをもつて論主(天親)は広大無碍の一心を宣布して、あまねく雑染堪忍の群萌を開化す。」(『教行信証』証巻 往還結釈 註釈版p335)

《現代語訳》 (つまり天親菩薩は、阿弥陀如来さまの広大で何ものにもさえぎられることのない救いのはたらきである”一心”を説き広められ、煩悩に汚され、迷いの世界であるこの娑婆に生きる数え切れないほどの衆生を救われていく道に向かわせたのです。)


と言われ、またご和讃(『高僧和讃』天親讃)に


 (一一)釈迦の教法おほけれど 天親菩薩はねんごろに

     煩悩成就のわれらには 弥陀の弘誓をすすめしむ


 (一六)天親論主は一心に 無碍光に帰命す

     本願力に乗ずれば 報土にいたるとのべたまふ


とされ、天親菩薩の「浄土論」作成の心持ちを示し、讃ぜられています。



天親菩薩は、もとはといえば大乗仏教を激しく批判していた立場におられた方で、まして「浄土門」のような教えも、受けつけず、優秀な頭脳を駆使し論破してきたお方です。

しかし、大乗仏教を学んでいた兄の、あまりにも真剣な大乗仏教の勧めに、ついにはその素晴らしさ、尊さに気づかれ、この「浄土論」を作成するに至ったのです。


上座部仏教の高度な学問を修学した上で、大乗仏教の教えの優れていることに納得し、そしてその教えを説き広めるというのは、説得力が違います。

ただ単に、盲信するのでなく、自分自身に落とし込み、その上で、他も教化していくという天親菩薩の「自利利他」の精神が、この「浄土論」に込められています。


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